多焦点(老視矯正)眼内レンズについて
通常、白内障手術で眼の中に入れるレンズは『単焦点レンズ』といって、焦点(はっきり見える距離)が1つに固定されたレンズです。単焦点レンズの場合、焦点以外の距離をはっきり見たい、というときはメガネが必要になります。例えば、焦点が遠くのレンズを入れた場合は、近くの新聞や雑誌の小さな文字をはっきり見たいときには、老眼鏡が必要になります。反対に、焦点が近くのレンズを入れた場合は、遠くをはっきり見たいときは、メガネが必要になります。
最近になり、『多焦点レンズ』といって、焦点が2か所または3か所ある眼内レンズが発売されました。このレンズは、遠くと近く、あるいは遠くと中間距離、遠くと中間距離と近く、など焦点を2ヶ所あるいは3か所に分けて作られており、うまくいけば術後にメガネをかける頻度を減らすことができるものです。スポーツをする際などにメガネがわずらわしい、という方には適しているレンズといえるかもしれません。ただし、術後に見える映像の鮮明度を単焦点レンズと多焦点レンズで比較した場合、多焦点レンズは、物から出る光を2つまたは3つの焦点に分けている分、鮮明度が少し落ちます。また、夜間に街灯の光がにじんで見えたり、光の周囲に輪がかかったように見える現象(ハロー、グレア)が単焦点レンズに比べて出やすい傾向にあります。また、多焦点レンズは、眼底疾患や不正乱視がある方には適応にならない場合もあります。
多焦点眼内レンズを用いた白内障手術はこれまでは健康保険の適応ではなく、全額自費にによる手術でしたが、2020年からは、手術そのものにかかる費用は健康保険の適応になりました。一方で眼内レンズの費用は健康保険の適用にならず、患者さんにご負担いただきます。(多焦点眼内レンズは特殊なレンズのため、単焦点レンズに比べてレンズ代が高価になっています。)このように、患者さんの選択により、治療にかかる費用の一部を自費で行うことを選定療養といいます。入院の際に個室を希望すると支払う『差額ベッド代』をイメージしていただけるとわかりやすいかと思います。
白内障手術を考えている方で、自分は多焦点眼内レンズの適応なのかどうか?手術についてさらに詳しく聞いてみたい、などありましたら、お気軽に診察時に尋ねてみてください。